建設業は技術が基本の業界ですが、技術だけあればなんでも工事ができるわけではありません。公的に認められた資格者がいないと、基本的に工事を請け負うことができないのです。ここでは、工事を請け負うために必要な3つの「技術者」について解説したいと思います。
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ただ単に「技術者」といえば、その業界でそれなりにスキルを身に着けている人を指しますが、ここで示す建設業界の「技術者」は、建設業法に則って公的に認められた人を指します。工事に関わる報告などで署名ができるのは、この「技術者」たちです。ではどのような「技術者」があるのか見てみましょう
主任技術者は、建設現場において主に技術管理を任される人です。元請け工事、下請け工事共通で施工計画・工程管理・品質管理・指導監督など、その工事に用いる技術や人員、部材や構造物の出来などに関わる監理を主体的に行います。
主任技術者が必要なケースは、4,000万円未満(建設工事一式の場合6,000万円未満)で元請け及び下請けの工事現場となっています。ただし延べ床面積が150㎡未満の木造工事で、建設業許可をとっていない業者が工事をする場合は不要と定められています(建設業許可をとっている場合は必要です)。
さらに元請け工事の現場の場合は、発注元との協議や工事家現場の近隣への説明、官公庁の届出などが加わります。つまり工事現場の主たる業務に主体的に関わる必要があるわけです。いってみればディレクターのような位置づけです。
このように工事現場に関わる業務と密につながるのが「主任技術者」の役割になるので、その施工会社の人間でないとなる意味がありません。建設業法においても「建設業者との直接的かつ恒常的な雇用関係」(専従)と表記されているので、別の会社の出向社員だったり派遣社員だったりする人は主任技術者になることはできません。
主任技術者になるには、いくつかの道があります。まずは国家試験を通過して1級ないしは2級の建築士、建築施工管理士、土木施工管理士など関連した「施工管理士」資格を保有している人。もしくは指定学科の高卒で5年以上の関連業務実務経験または大卒で関連業務実務経験が3年以上、学歴規定なしで関連業務実務経験が10年以上と決められています。
以前に紹介した「技能士」資格を保有している人も主任技術者になることができます。主任技術者になる資格を得るには各関連技能検定2級に合格したあと、その業務に3年以上従事する必要があります。つまり上で説明した指定学科の大卒と同じ程度の職務経験が必要となるわけです。
また、このあとに説明する「監理技術者」の資格を取得している人は、この主任技術者にもなることができます。
主任技術者と技能検定2級以上 相対表
建設業種 | 技能検定種別 |
---|---|
大工一式工事 | 建築大工 |
左官一式工事 | 左官(左官工) |
とび・土木工事 | とび(とび工), 型枠施工, コンクリート圧送施工 |
石工事 | ブロック建築(ブロック建築工), コンクリート積みブロック施工, 石材施工(石工,石積み) |
屋根工事 | スレート施工, かわらぶき, 板金(板金工)で選択科目が「建築板金作業」, 建築板金 |
管工事 | 配管(配管工), 給排水衛生設備配管, 冷凍空気調和機器施工(空気調和設備配管) |
タイル・れんが・ブロック工事 | れんが積み, 築炉(築炉工), ブロック建築(ブロック建築工), コンクリート積みブロック施工, タイル張り(タイル張り工) |
鋼構造物工事 | 鉄工(製罐) |
鉄筋工事 | 鉄筋施工で選択科目が「鉄筋施工図作成作業」及び「鉄筋組み立て作業」(鉄筋組立て) |
板金工事 | 工場板金, 建築板金(板金で選択科目が「建築板金作業」, 板金工で選択科目が「建築板金作業」,打ち出し板金) |
ガラス工事 | ガラス施工 |
塗装工事 | 塗装, 路面標示施工(木工塗装, 木工塗装工, 建築塗装, 建築塗装工, 金属塗装, 金属塗装工, 噴霧塗装) |
防水工事 | 防水施工 |
内装工事 | 畳製作(畳工), 内装仕上げ施工, 表装, (カーテン施工,天井仕上げ施工, 床仕上げ施工, 表具,表具工) |
熱絶縁工事 | 熱絶縁施工 |
建具工事業 | 建具製作(建具工, 木工・建具製作作業), カーテンウォール施工, サッシ施工 |
造園工事 | 造園 |
さく井工事 | さく井 |
実は「監理技術者」の仕事の内容は、おおむね上で紹介した「主任技術者」とほぼ変わりません。ではそのほかの点で、主任技術者と監理技術者の違いはなにがあるのでしょうか。
監理技術者で一番大きなポイントは、所属が元請け会社であるということです。元請け会社でない限りは監理技術者を配置する必要はありません。ですから主任技術者と違うポイントのひとつには「元請け会社として下請け会社を指導・統括する」ことが挙げられます。
もうひとつの要件は、元請け会社として直接請け負った工事を主任技術者の配置が義務づけられている以上の価格で(=元請け会社で4,000万円以上/建設工事一式の場合6,000万円以上)下請けに発注していると、元請け側は「特定建設業許可」が必要となります(下請け側は不要です)。
その条件で特定建設業許可業者が元請けとして名を連ねている現場の場合は、「主任技術者」ではなく「監理技術者」の配置を義務付けられています。前述の基準額以下の金額で下請けに出しているときは、主任技術者を配置すればよいということです。
その監理技術者になるためには、主任技術者より工事監理の規模が大きいことからも分かる通り、主任技術者よりもより難しい要件が設定されています。
まずは国家試験に通過していることが必要です。「1級●●士」(※)という資格が第一要件となっています。または同じ国家資格である、事業に関連する「技術士」でも可能です。いずれの国家試験も受験資格が設定されているので、まずはそれを下の記事で確認してみてください。
※建築士のみ1級、2級ではなく、漢数字で一級、二級と表記します
「1級●●士」という資格をもっていない人は、ある一定の規模以上の元請工事に規定以上(10年程度)従事しした実務経験者にも認められることになっています。ただし指定建設業は除外されますので、1級の国家資格もしくは技術士の資格を得る必要があります。
ちなみに監理技術者も主任技術者と同じように、建設業法において「建設業者との直接的かつ恒常的な雇用関係」(専従)と規定されているので、別の会社の出向社員だったり派遣社員だったりする人は監理技術者になることはできません。
さらに監理技術者として現場に出るには、監理技術者資格者証の携帯が必要になります。これは、免許証のような写真付きのもので、国家試験を通過した人、もしくは規定以上の期間元請け工事に従事した経験者(=資格要件を満たした人)が、CE財団(建築業技術者センター)へ申請し交付を受けることができます。
もうひとつ現場に出る要件としては、「監理技術者講習」を修了する必要があります。以前は資格者証取得の要件であった監理技術者講習受講ですが、現在は別々に申請をして受講します。資格者証の取得と、講習修了の順番はどちらが先でもかまいません。
この監理技術者講習を終了すると修了証を授与されます。それをもって晴れて監理技術者として現場に出ることができます。ちなみに資格者証は携帯必須ですが、修了証は携帯していることが「望ましい」とされているので、必ずしも持ち歩いてなくても問題にはなりません。
監理技術者と国家資格 相対表
建設業種 | 技能検定種別 |
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土木一式工事 | 1級建設機械技士, 1級土木施工管理技士 |
建築一式工事 | 1級建築施工管理技士, 一級建築士 |
大工工事 | 1級建築施工管理技士, 一級建築士 |
左官工事 | 1級建築施工管理技士 |
とび・土木工事 | 1級建設機械施工技士, 1級土木施工管理技士, 1級建築施工管理技士 |
石工事 | 1級土木施工管理技士, 1級建築施工管理技士 |
屋根工事 | 1級建築施工管理技士, 一級建築士 |
電気工事 | 1級電気施工管理技士 |
管工事 | 1級管工事施工管理技士 |
タイル・れんが・ブロック工事 | 1級建築施工管理技士, 一級建築士 |
鋼構造物工事 | 1級土木施工管理技士, 1級建築施工管理技士, 一級建築士 |
鉄筋工事 | 1級建築施工管理技士 |
舗装工事 | 1級建設機械管理技士, 1級土木施工管理技士 |
浚渫(しゅんせつ)工事 | 1級土木施工管理技士 |
板金工事 | 1級建設機械施工技士 |
ガラス工事 | 1級建設機械施工技士 |
塗装工事 | 1級土木施工管理技士, 1級建築施工管理技士 |
防水工事 | 1級建築施工管理技士 |
内装仕上工事 | 1級建築施工管理技士, 一級建築士 |
熱絶縁工事 | 1級建築施工管理技士 |
造園工事 | 1級造園施工管理技士 |
建具工事 | 1級建築施工管理技士 |
水道施設工事 | 1級土木施工管理技士 |
解体工事 | 1級土木施工管理技士, 1級建築施工管理技士 |
主任技術者と監理技術者が現場を仕切る技術者なのはおわかりいただけたと思います。もうひとつの技術者は専任技術者といいますが、この技術者はなにを専任されているのでしょうか。
専任技術者は正確には「営業所専任技術者」と呼ばれていて、主に営業所において仕事をする人です。この専任技術者が配置されていないと、建設業許可の取得ができないという、極めて重要な人なのです。主に営業所・事務所において、契約の締結に関わる業務と発注者と技術的なやりとりを行います。
専任技術者になるにはやはり要件がありますが、勤務先が「一般建設業」なのか「特定建設業」なのかによって違います。一般建設業の場合は主任技術者(=監理技術者も可)の資格要件と一致していて、特定建設業の場合は監理技術者の資格要件に一致しています。
つまり、主任技術者は一般建設業の専任技術者にも就くことができて、監理技術者は特定建設業でも一般建設業でも専任技術者に就くことができるわけです。でも、ひとつ問題があります。それは専任技術者が「専任」であることです。
専任技術者は本来は営業所において「専任」であり、ほかの現場と「兼任できない」ということが呼称にも反映されています。つまりは現場に出ていけないということが建築業法で定められています。
しかし、建設業界の需要が高くなりさらに人材不足が叫ばれる中で、それぞれの現場に管理者を確保し、営業所にも確保することがなかなか難しくなっています。さらに一般建設業業者のなかには、中小企業も含まれており、人件費などの問題もついてまわります。
そこで2003年に建築業法上、ひとつ緩和要件が付け加えられました。それは、専任技術者の条件付き兼任です。基本的に営業所にいないとならない専任技術者ですが、営業所の業務に支障が出ない程度の距離にある工事現場であれば主任技術者または監理技術者の兼務ができるようになりました。
また専任技術者については主任技術者や監理技術者と違い、状況的に専従に近いとみなされた場合はこの職に就くことができます。出向社員などでも可能になったのです。でもここでひとつ注意する必要があります。それは主任技術者や監理技術者の「専従」です。
条件付き兼任の専任技術者が出向社員などの場合、緩和要件を満たしていたとしても、主任技術者や監理技術者の兼任ができないのです。緩和されたのは専任技術者の雇用状況のみで、主任技術者や監理技術者は専従であるとされたままなので、正社員などの専従専任技術者だけが条件を満たせば兼任できるというわけです。