今、世の中では少子高齢化が進み、いろいろな家業が廃業したり、技術が喪失されたりしていることが社会問題化してきました。そんな折、建設業界のなかでも町場大工の減少が止まらなくなっています。今回はそのことについて考えてみましょう。
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最近、家屋の建築現場などの前を通っても、町場大工がノミやカンナで材木を加工している姿を見なくなりました。建築工法の効率化を求められた建設業界はプレカットの手法を取るようになり、工場一括で木材を切り出し加工した上で現場に持ち込むようになったからです。
国勢調査によると、大工全般を生業にしている人口は減少の一途です。大工と一緒に仕事をすることの多い左官業も合わせて見てみましょう。
単位:人 | 1980年 | 1985年 | 1990年 | 1995年 | 2000年 | 2005年 | 2010年 | 2015年 |
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大工 | 937,000 | 806,000 | 734,000 | 762,000 | 647,000 | 540,000 | 450,000 | 411,000 |
前回比 | ー | 86% | 91% | 104% | 85% | 83% | 83% | 91% |
左官業 | 290,000 | 227,000 | 200,000 | 188,000 | 152,000 | 125,000 | 90,000 | 73,000 |
前回比 | ー | 78% | 88% | 94% | 81% | 82% | 72% | 81% |
データ参照元:総務省統計局
5年おきに実施されている国勢調査で直近の2015年の数字と20年前を比較してみると、大工に関しては半分以下に、左官業にいたっては3割近くに激減しています。
大工になりたいという若手がいなくなったのは、大卒率の向上でホワイトカラーの就職率が上がったことに起因するともいわれていますが、そもそも子供時代にある程度形成されるであろう「職業への憧れ」という観点からしても、町場大工の仕事そのものを見なくなってしまった今では、難しいのかもしれません。
また労働環境が変化したことも起因すると思います。棟梁と弟子の関係は、ひとつ間違えればモラハラやパワハラだとか、ブラックだとか言われるようになりました。昔から建設現場では棟梁にどやされる若手を見ることもありましたが、どんなに愛を持っていたとしても、いまではそれもご法度というわけです。
中小零細の工務店は、そのような事情によって廃業したりハウスメーカーの傘下に入ったりして、造作大工としての道を選ぶことになることが多いようです。ハウスメーカーの仕事量は多く単価が安いので、数をこなして生業を立てるという選択をせざるをえないということでしょう。
そもそも一般住宅の建設をハウスメーカーがシェアを占めるようになったのは、理由があります。古くは単価の高かった一般住宅ですが、ハウスメーカーの経営努力によって売価が下がり、バブル崩壊とリーマンショックを経て固くなった消費者マインドと合致したということでしょう。
そのハウスメーカーの経営努力の一環が「プレカット」です。建売住宅はいくつかのパターンで設計され、同じ部材を利用することで工数を減らし、かつ使用する木材などは工場で一括加工をほどこし、各現場に搬入するというシステマチックなものになりました。
建売住宅の単価を下げることに寄与した「プレカット」ですが、はたしてどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
まずメリットして挙げられるのは、すでに上述したコストカット。工場一括加工のため無駄とロスを省くことが出来ること、一括仕入れのため原料の価格が抑えられること、汎用性の高い設計で部材の種類が多くなくなったことです。
次に工期の短縮です。すでに加工された部材を工場から運んできて、現場で組み立て作業や造作を行うことだけに集中できるので、基礎ができてから完工まで時間短縮され、ハウスメーカーの人件費やそれに関わる大工の負担が軽減されました。
工期が短縮されたことで、もうひとつ工事現場の近隣環境にもメリットを生みました。長期間に渡り工事をし続けることがなくなり、作業の騒音の低減や現場周りを汚すことも減り、近隣住民からのクレームを受けることも減りました。
メリットはわかりやすいものでしたが、デメリットはどうでしょうか。まず挙げられるのは、工場で機械が加工した木材が現場で合わないということがあります。機械が画一的に加工したものが100%問題なく収まるというわけではありません。そこで現場にいる大工が急遽対応することにはなりますが、そもそも従来の大工仕事を経験している人よりも、経験値やワザが劣ることがあるので対応に窮することになったりします。
それと同じようなことですが木材を画一的に加工していくと、木材のくせ(年輪、木目、材質の湿度に対する反応など)が反映されないことがあり、部材として適していないことがあります。それはそのまま放置すると、長年住んだあとに問題を生じさせることもあります。
工場の機械加工でもうひとつ問題になるのが、複雑な仕口や継手に適していないということが挙げられます。仕口や継手は木造建築の耐久性や耐震性に影響するワザで、木材の質によっても変わってくるので、目利きも必要になってきます。
このようにメリットとデメリット両方あることが分かりましたが、市場原理に照らし合わせてみれば「より安くより早くより良いものを求める消費者心理と摺り合せられている」とも言えますが、いろいろと問題点も上がってくるのが実状です。
テレビCMなどで有名人を起用しよく見るようになったハウスメーカー各社。ここまで普及した要因のひとつに「プレカット」があったわけですが、その裏で町の工務店などは減少の一途をたどっています。ほんとうにこのまま絶滅してしまうのでしょうか。
まず宮大工については、どんな時代も必要とされています。ご存知の通り、大阪四天王寺を聖徳太子の名で建築した「金剛組」は宮大工集団。創立は6世紀末で、現在で1400年超の会社です。日本社会の根幹に関わる寺社仏閣がなくならない限りは宮大工という仕事もなくなることはないという証拠でしょう。
造作大工についても、前述の通りハウスメーカーの中に入るか、独立業態でも商業テナント(特に小売業や飲食業など)や住宅リフォームの造作依頼などがあるので、町場大工のように仕事が激減するということにはならないと思います。
では、本来より市民に密着していた町場大工はどうでしょうか? 結論からすると1棟まるまる建築する仕事は減少しているにしろ、住宅などの家屋のリノベーションなどで活躍できる場があると思われます。
とくに、手を加える所とそのまま残す所が混在するリノベーションでは、柱の残す位置や壁を抜けるかどうかなど、その見識と技量が発揮される現場です。さらに古い家屋のリノベーションは、現在用いられているプレカット部材ではないものを用いられていることも多く、その対応力を買われることになります。
いろいろと存続策を打たざるをえない町場大工ですが、それ以外にも悩みのタネは尽きないようです。それは、道具の入手困難であることや、冒頭で書いたような担い手の減少。ワザや知識を引き継いでくれる若手がいないことです。
道具が入手困難である理由は、工具や道具の販売が減少し、製造元が減少しているということです。大手の電動工具メーカーが部門ごと売却してしまったり、鋳物鍛冶で有名な岐阜の関市や新潟の中越地域などの業者も、世の中の煽りと大工仕事の減少をうけて道具の製造を止めて、輸出向け商品に転換したり廃業してしまったりと、他業種との相関関係もあるのです。
大工の命とも言える道具が入手できないとなると、仕事のあるなしと同じくらい大きな問題になってきます。クオリティの高い海外製品もありますが、海外の大工とワザや使用法が異なる場合もあるので、それで補うのは難しいのではないでしょうか。
もうひとつの問題は若手と後継者について。いろいろな背景があるにしろ若手がいないことや、跡継ぎがいないことで廃業を決める棟梁も少なくありません。一般社会とともに労働人口が高齢化していくと、ますます進行していくことでしょう。
若手減少の歯止めには「平成の大工棟梁検定」や、「プレカット」を機械ではなく人手で行う「ハンドプレカット」などのようなシステムを普及させ、若手の技能向上と定職率の向上を図ることが解決策でしょう。
高齢化からの継承問題に対しては、これは大工にだけ言えることではありませんが、各業種後継者問題が顕在化したときから、マッチングなどのシステムに自治体が取り組んでいるので、そこに活路を見出していくしかありません。また家業から会社化を図るというのも後継者問題の解決の一歩でしょう。